父親は心配そうに訊《き》いた。
「ううん。」
銀子は胸につかえるものを感じ、そういって起《た》ちあがると、そっと二階へあがってみた。
十三
二階は上がり口が三畳で、押入れに置床のある次ぎの六畳に古い箪笥があり、父は敬神家とみえて天照皇大神の幅がかかっていた。東郷大将の石版刷も壁にかかっていたが、工場通いと学校通いと、四人の妹がここで学課の復習もすれば寝床も延べるのだった。
銀子は物干へ出られる窓の硝子窓《ガラスまど》を半分開けて、廂間《ひさしあい》から淀《よど》んだ空を仰ぎ溜息《ためいき》を吐《つ》いたが、夜店もののアネモネーや、桜草の鉢《はち》などがおいてある干場の竿《さお》に、襁褓《おしめ》がひらひらしているのが目についた。
銀子はまだ赤ん坊の顔も見ず、母の妊娠していたことすら知らずにいたのだったが、なるほどそう言えば正月に受け取った時ちゃんの年始状の端に、また妹が一人|殖《ふ》えました、どうして家《うち》には男の子が出来ないんでしょうなどと書いてあったが、余所事《よそごと》のような気持で、嬉《うれ》しくも悲しくもなかった。柳原時代の前後、次ぎ次ぎに産ま
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