ような花も、いつとはなし腐ってしまい、椎《しい》の木に銀鼠色《ぎんねずいろ》の嫩葉《わかば》が、一面に簇生《そうせい》して来た。人気《ひとけ》のない時は、藪鶯《やぶうぐいす》が木の間を飛んでいたりして今まで自然の移りかわりなどに関心を持とうともしなかった銀子も、栗栖の時々書いて見せる俳句とかいうものも、こういうところを詠《よ》むのかいなと、ぼんやり思ってみたりして、この家も自分のものか借家なのか、訊《き》いてみたこともなかったけれど、来たてに台所と風呂場《ふろば》の手入れをしたりしていたところから見ると、借家ではなさそうでもあった。それに金ぴかの仏壇、槻《けやき》の如輪目《じょりんもく》の大きな長火鉢《ながひばち》、二|棹《さお》の箪笥《たんす》など調度も調《ととの》っていた。磯貝は見番の役員で、北海道では株屋であったが、ここでは同業者へ金の融通もするらしかったが、酒とあの一つのことにこだわりさえしなければ、好意のもてなくもない普通の人間で、銀子も虚心に見直す瞬間もあるのだった。死んだマダムもこの親爺《おやじ》も両親は土佐の士族で、産まれは悪くもなかった。
「これが自分のものになるのか
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