って来たこともあったが、波の音が夢心地《ゆめごこち》の耳に通ったりして、酒の酔いが少しずつ消えて行く頭脳に、言い知らぬ侘《わび》しさが襲いかかり、死の幻想に浸るのだったが、そうした寂しさはこのごろの彼女の心に時々|這《は》い寄って来るのだった。
「すぐ帰って来るけれど、君はどうする。よかったら待っていたまえ。」
栗栖は仕度《したく》を調《ととの》え、部屋を出ようとして、優しく言った。
「私も帰るわ。」
そう言って一緒に外へ出たが、銀子は一丁ばかり黙ってついて来て、寂しいところへ来た時別れてしまった。
栗栖から離れると、銀子の心はにわかに崩折《くずお》れ、とぼとぼと元の道を歩いたのが、栗栖の門の前まで来ると、薄暗いところに茶の角袖《かくそで》の外套《がいとう》に、鳥打をかぶった親爺の磯貝《いそがい》が立っているのに出逢《であ》い、はっとしたが、彼はつかつかと寄って来て、いきなり腕の痺《しび》れるほどしっかり掴《つか》み、物もいわずにぐいぐい引っ張って行くので、銀子も力一杯に振り釈《ほど》き、すたすたと駈《か》け出して裏通りづたいに家《うち》へ帰って来た。
銀子は少し我慢さえすれば
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