だぴちぴちしていた。
「失敬なことを訊《き》いてすまないけれど、やはり現実の問題となるとね。」
銀子は黙っているので栗栖は追加した。
「いくらでもないわ。」
「…………。」
「千円が少し切れるぐらいだと思うわ。それに違約の期限が過ぎているから、親元身受けだったら、落籍《ひき》祝いなんかしなくたっていいのよ。」
「じゃ、それだけ払ったら、君僕んとこへ来るね。よし安心したまえ。」
銀子は事もなげに領いたが、何か大きな矛盾がにわかに胸に乗しかかって来て、瞬間弱い頭がぐらぐらするのだった。今夜もまた自暴酒《やけざけ》を呷《あお》っているであろう、獣のような親爺《おやじ》の顔も目に浮かんで来た。
急患があり、病院から小使が呼びに来たので栗栖は玄関へ出て行ったが、部屋へ帰ってみると、銀子が薬棚《くすりだな》の前に立って、うろうろ中を覗《のぞ》いていた。
十
「おい、そんな処《ところ》に立って、何を覗いていたんだい。その中には劇薬もあるんだぞ。」
栗栖は仄《ほの》かな六感が働き、まさかとは思ったが、いわば小娘の銀子なので、その心理状態は測りかね、窘《たしな》めるように言った。
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