か行ったところに、織物で聞こえた町に近く彼女の故郷があり、村の大半以上を占める一巻という種族の一つから血を享《う》けているのだったが、交通の便もなく、明治以来の文化にも縁のないこの山村では、出るものとては百合《ゆり》とかチュリップとか西瓜《すいか》くらいのもので、水田というものもきわめてまれであった。織物が時に銀子のところへ届き、町の機業家も親類にあるのだったが、この村では塩鮭《しおざけ》の切身も正月以外は膳《ぜん》に上ることもなく、どこの家でも皺《しわ》くちゃの一円紙幣の顔すら容易に見られなかった。他国者は異端視され、村は一つの家族であった。
「その代り空気は軽いし、空はいつでも澄みきっているし、夜の星の綺麗《きれい》さったらないわ。水は指が痺《しび》れるほど冷たくて、とてもいい気持よ。高い処《ところ》へ登るとアルプス連山や赤倉あたりの山も見えるの。」
銀子も若い時分一度行ったことがあったが、妹の一人は胸の病気をその山の一と夏で治《なお》した。
「けれどあんな処でも肺病があるのはどういうんだろう。お母さんの一家は肺病で絶えたのよ。お父さんも兄弟も。私あすこへ行って初めて聞いて解《わ
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