いかね、目見えも一度では納まらなかった。
四
均平も、銀子がまだ松の家にいる時分、病気で親元へ帰っている彼女からの手紙により、水菓子か何かもって見舞に行ったこともあった。
「お父さんもお母さんも、田舎《いなか》へ行って留守だから、お上がんなさいな。」
と店つづきの部屋で、独りぽつねんと長火鉢《ながひばち》の前に坐っている彼女にいわれ、二階から妹たちも一人一人降りて来て挨拶《あいさつ》するのだったが、彼女は鼠《ねずみ》に立枠《たてわく》の模様のある新調のお召を出して見せ、
「いつ旅行するの。私着物を拵《こさ》えて待っていたのに。」
と催促するのだった。
家をもった時、父親が箪笥《たんす》や葛籠《つづら》造りの黒塗りのけんどん[#「けんどん」に傍点]などを持ち込み、小さい世帯《しょたい》道具は自身リヤカアで運び、釘《くぎ》をうったり時計をかけたりしていたが、職人とも商人ともつかぬ、ステンカラの粗末な洋服を着ており、昔し国定と対峙《たいじ》して、利根川《とねがわ》からこっちを繩張《なわばり》にしていた大前田の下ッ端《ぱ》でもあったらしく、請負工事の紛紜《いざこざ》で血
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