廓《ゆうかく》の移転問題で、収賄事件が起こったでしょう。そしてあの男は、ピストルで死んだでしょう。」
「あの時分から政党も、そろそろケチがつき出したんじゃないか。」
「岩谷は今ここにいるから、来いというのよ。来るか来ないか、はっきり返辞をしろというんで、さっきからの電話のごたごたで、少し中っ腹になっているの。」
二
「それでどうしたんだ。」
均平は淡い嫉妬《しっと》のようなものから来る興味を感じたが、銀子はいつも話の要点をそらし、前後の聯絡《れんらく》にも触れない方だったので面倒くさいことを話しだしたものだというふうで、
「私も傍に人がいるから、言いたいこともいえないでしょう。は、はとか、ああそうですかとか言ったきりで電話を切ってしまったの。私が行くとも行かないとも言わないもんだから、みんな変な顔していたけれど、それから警戒しだしたの。お風呂《ふろ》へ行くにも髪結いさんへ行くにも、何とかかとか言って、子供を守《も》りするふうをして幸ちゃんが付いて来るの。どこの主人でも、抱えとお客とあまり親密になることは禁物なんだわ。どこの出先からも万遍なくお座敷がかかって、お馴染《な
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