《まち》でのことで、誰か通りすがりの人の声が耳元でしたかと思うと、たちまち蘇《よみがえ》って歩き出した。

 大分たってからある日葉子の手紙が届いた。咲子|宛《あて》のもので、彼女の名も居所も書いてなかった。何か厚ぼったいその封書を手にした瞬間、彼はちょっと暗い気持になったが、とにかく開けて見た。
 咲子はちょうど三四日病気していた。時々発作的に来る病気で、何か先天的な心臓の弁膜か何かの故障らしく胸部に痛みを感ずるものらしかった。長いあいだ子供の病気や死には馴《な》れている庸三だったが、夙《はや》く母に訣《わか》れた咲子の病気となると、一倍心が痛んだ。
「大きくなれば癒《なお》りますが、今のところちょっと……。」
 医師は言うのであった。
「おばちゃん! おばちゃん。」
 そう言って泣く咲子の声が耳に滲《し》みとおると、庸三の魂はひりひり疼《うず》いた。彼女は一度言い聞かされると、その瞬間から慈母のことは一切口にしなくなったが、それだけに、葉子の愛情は一層必要となった。童謡や童話で、胸をさすられたり、出ればきっとチョコレイトか何かを買ってくれて、散歩にもつれて行けば、頸《くび》を剃《そ
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