後に葉子ともすっかり遠くなってしまってから、彼は四五人のダンス仲間と一緒に入った「サロン春」で、偶然彼女に出遭《であ》ったものだったが、二三年のあいだに彼女はすっかり好い女給になっていた。
「葉子君んとこへ行かなかった?」
「梢《こずえ》さん? いいえ。お宅にいらっしゃるんじゃないんですか?」
何か知っているのではないかと思ったが、そのままに別れた。
この辺は晩方妻とよく散歩して、庸三のパンや子供のお弁当のお菜や、または下駄《げた》とか足袋《たび》とか、食器類などの買い物をしつけたところで、愛相《あいそ》のよかった彼女にお辞儀する店も少なくなかったが、葉子をつれて歩くようになってから、下駄屋や豆屋も好い顔をしなくなった。庸三もその辺では買いものもしにくかった。葉子と散歩に出れば、きっと交叉点から左へ曲がって、本屋を軒並み覗《のぞ》いたり、またはずっと下までおりて、デパアトへ入るとか、広小路で景気の好い食料品店へ入ったりした。気が向くとたまには寄席《よせ》へも入ってみた。活動の好きな彼女はシネマ・パレスへは大抵欠かさず行くので、彼も電車で一緒に行って見るのであったが、喫煙室へ入ると、
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