を尊崇していた。そこから出て来る耳新しい文学論は、葉子にも刺戟《しげき》があった。

「いる、いる!」
 窓から顔を出している瑠美子が目の前へ来た時、子供は頬笑《ほほえ》ましげに叫んだのだったが、庸三は何か冒険に狩り立てられるような不安を抱《いだ》いた。心は鎖《とざ》されていたが、しかしそれで葉子の落着きも出来そうに思えた。
 父が上海《シャンハイ》に遯《のが》れてから、瑠美子と幼い妹と弟とは、継母とその子供と一緒に、小樽の家を畳んで、葉子の町からはちょっと距離のある、継母の実家のある町に移って来た。その動静が葉子の母親たちの耳へも伝わって、惨《みじ》めに暮らしていることが解《わか》ったところで、奪取が企てられた。金を葉子に贈るために、四月に松川が東京に立ち寄った時、葉子は初めて瑠美子だけでも還《かえ》してくれるように哀願したのだったが、拒まれた――そう言って葉子は庸三に泣いていたものだったが、今その子供と一緒に庸三の家に落ち着いた彼女はたちまちにしてそこに別の庸三を見出《みいだ》した。
 母親がわりの葉子の愛を見失うまいとして取り着いて来る、庸三の末の娘の咲子と、幾年ぶりかで産みの母
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