て行ったが、芝居がだんだん進展して行くのに、どうしたことか葉子は容易に帰ってこなかった。彼は苛《いら》ついて来た。理由がわからなかった。彼は少し中っ腹で入口へ出てみた。そして廊下をぶらついているうちに、入って来る葉子の姿が目に入った。芝居よりかお茶でも呑《の》もうというので、喫茶店へ入っていたのだことを、葉子はそっと告げた。
ある時も、彼女はパリへ立つ友人を見送る子供と三四人の同窓と、外国航路の船を見いかたがた横浜へ行こうとして、庸三の許しを乞《こ》うた。
「行ってもいい?」
庸三は危ぶんだ。
「さあね、君が行きたいなら。」
「だからお訊《き》きしたいのよ。先生がいけないというなら断わるわ。」
「僕は何ともいうわけにいかない。」
「じゃ断わるわ。」
「断わる必要はない。君が行きたいんだったら。」
その日が来たところで、結局葉子は子供たちと同行した。ちょうど庸三は用達《ようた》しに外出していたが、夜帰ってみると、彼女は教養ある青年たちのナイトぶりに感激したような口吻《こうふん》を洩《も》らしていた。そのころ彼らもだろうが、彼の子供はボオドレイルの悪魔主義や、コクトオ一派の超現実主義
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