くびょう》な彼の心は、次第に恥知らずになって、どうかすると卑小な見えのようなものも混ざって、引込みのつかないところまで釣りあげられてしまった。
引込みのつかなかったのは、庸三ばかりではなかった。すっかり自分のものになしきってしまった庸三からの逃げ道を見失って、今は彼女も当惑しているのであった。
「僕を独りで帰そうというんだね。」
庸三はすれすれに歩いている葉子を詰《なじ》った。一抹《いちまつ》の陰翳《いんえい》をたたえて、彼女の顔は一層美しく見えた。
「そうじゃないけど、少し話も残して来たし、私後から行っちゃいけない?」
「そうね。」
「先生はいいのよ。だけどお子さんたちがね。」
葉子は別居を望んでいたが、子供たちから離れうる彼ではないことも解《わか》っていた。そして庸三の悩みもそこにあった。彼は「今までの先生の家庭の仕来《しきた》り通りに……」と誓った葉子のかつての言葉を、とっこに取るにはあまりに年齢の違いすぎることも知っていたが、彼女に殉じて子供たちから離れるのはなおさら辛《つら》かった。独りもののいつもぶつかるデレムマだが、同時にそれは当面の経済問題でもあった。何よりも彼は
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