台とはない器械を備えつけて、町の受けはよかった。ある晩は料亭で、つぶ貝などを食べながら、多勢《おおぜい》の美人の踊る音頭《おんど》を見せられ、ある時はまた川向いにある彼女の叔母《おば》の縁づき先であった町長の新築の屋敷に招かれて、広大な酒蔵へ案内されたり、勾欄《こうらん》の下を繞《めぐ》って流れる水に浮いている鯉《こい》を眺めながら、彼の舌にも適《かな》うような酒を呑《の》んだりした。葉子はそんな家へ来ると、貰《もら》われた猫のように温順《おとな》しくなって、黒の地紋に白の縫紋のある羽織姿で末席にじっと坐っているのだったが、昔から、その作品を読んだり、東京でも、一度|逢《あ》ったことのある青年が一人いたので、庸三は手持|無沙汰《ぶさた》ではなかった。葉子と又従兄《またいとこ》くらいの関係にあるその青年は、町で本屋をしていたが、傍《かたわ》ら運動具の店をも持っていた。その細君はこの町長の養女であった。勾配《こうばい》の急なその辺の街《まち》を流れている水の美しさが、酒造りにふさうのであった。その山地をおりて、例の川に架《か》かった古風な木橋を渡ると、そこはどこの田舎《いなか》にもあるよう
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