な場末で、葉子の家もそう遠くなかった。
庸三が寝起きしている離れの前には、愛らしい百日草が咲き盛っていたが、夏らしい日差しの底にどこか薄い陰影があって、少しでも外気と体の温度との均衡が取れなくなると、彼は咳をした。葉子は取っ着きの家からシャツを取ってくれたりしたが、母親は母親で、蔵にしまってある古いものの中から、庸三が着ても可笑《おか》しくないような黄色いお召の袷《あわせ》や、手触りのざくりとした、濃い潮色《うしおいろ》の一重物《ひとえもの》を取り出して来たりした。ある日はまたにわかに暑くなって、葉子は彼をさそって橋の下から出る蟹釣船《かにつりぶね》に乗って、支那《シナ》の風景画にでもあるような葦《あし》の深いかなたの岩を眺めながら、深々した水のうえを漕《こ》いで行った。葉子の家の裏あたりから、川幅は次第に広くなって、浪に漾《ただよ》っている海猫《うみねこ》の群れに近づくころには、そこは漂渺《ひょうびょう》たる青海原《あおうなばら》が、澄みきった碧空《あおぞら》と融《と》け合っていた。
「明朝《あした》蟹子《かにこ》持って来るのよ。きっとよ。私の家《うち》知っているわね。」
葉子は
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