のであったが、庸三はそんな気にはなれなかった。
「僕は誰とも結婚はしません。」
 彼はそう言って、自身の生活環境と心持を真面目《まじめ》に説明した。記者は時代の青年らしい感想など、無遠慮に吐いて、やがて帰って行った。

      六

 雪国らしい侘《わび》しさの海岸のこの町のなかでも、雪の里といわれるその辺一帯は、鉄道の敷けない前の船着場として栄えていたころの名残《なごり》を留《とど》めているだけに、今はどこにそんな家があるのか解《わか》らない遊女屋の微《かす》かな太鼓の音などが、相当歩きでのある明るい町の方へ散歩した帰りなどにふと耳についたりするのだったが、途中には奥行きの相当深いらしい料亭《りょうてい》の塀《へい》の外に自動車が二三台も止まっていたりして、何か媚《なま》めかしい気分もただよっていた。
「ここのマダム踊りの師匠よ。近頃は雪枝さんを呼んで、新舞踊もやっているのよ。」
 葉子はそう言って、そのマダムが話のわかるインテリ婦人であることを話した。庸三は着いた日にさっそく来てくれた彼女の兄の家や、懇意にしている文学好きの医学士の邸宅などへも案内された。歯科医の兄は東京にも三
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