の附近の廻船問屋《かいせんどんや》の盛っていたころの古いロオマンスなどを話して聞かせていたが、するうち飽きて来て、うとうと眠気が差して来た。――六年間肺病と闘《たたか》っていた父の生涯、初めて秋田の女学校へ入るために、町から乗って行った古風な馬車の喇叭《ラッパ》の音、同性愛で教育界に一騒動おこったそのころの学窓気分、美しい若い人たちのその後の運命、彼女の話にはいつも一抹《いちまつ》の感傷と余韻が伴っていた。
駅へは葉子の母と妹、縁続きになっている土地の文学青年の小山、そんな顔も見えた。家は真実そんなでもなかったけれど、美事な糸柾《いとまさ》の杉《すぎ》の太い柱や、木目《もくめ》の好い天井や杉戸で、手堅い廻船問屋らしい構えに見受けられた。裏庭へ突きぬける長い土間を隔てて、子供の部屋や食堂や女中部屋や台所などがあった。挨拶《あいさつ》がすんでから、庸三は二階へ案内されたが、そこには広い縁側に古びた椅子《いす》もあった。そこの広間がかねがねきいている、二日二晩酒に浸っていた松川との結婚の夜の名残《なご》りらしかったが、彼女は多分草葉を連れて来た時もしたように、彼をその部屋に見るのが面羞《お
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