ぴきならない負債の始末をして、一旗揚げるつもりで上海《シャンハイ》へ走るところであった。当分|潜《もぐ》っていて、足場が出来次第後妻や子供たちを呼び寄せることになっていた。葉子は涙ぐんだ。
「これは絶対秘密だよ。不自由してるだろうから、貴女にあげようと思って……これだけあれば当分勉強ができるだろう。」
 松川はそう言って、ポケットの札束から大札十枚だけを数えて渡した。送らせて来た書生が席を外していたので、二人はいつも媾曳《あいびき》している恋人同志のように話し合った。
「あの先生も君を好きだろう。始終傍にいるのかい。」
「ううん……それに先生はお年召していらっしゃるから。」
 日の暮れ方になって、葉子は別れて来たが、外へ出てからも涙がちょっとは乾かなかった。
 庸三は騒がしい風の音を聴《き》きながら、葉子の帰るのを待ち侘《わ》びていた。憂鬱《ゆううつ》な頭脳《あたま》の底がじゃりじゃりするようで、口も乾ききっていた。彼は肉体的にも参っていた。
 帰って来た葉子の目が潤《うる》んでいた。
「そのくらいのことは赦《ゆる》してもいい。」
 庸三は仕方なしそういう気持にもなれたが、しかし葉子は
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