否定した。
「あの人もう私をすっかり他人行儀の敬語を使ってるくらいよ。――私に千円くれたの。私|貰《もら》って来たわ。秘密にしてね。」
「銀行へ預けときたまえ。」
「そうするわ。」
そうしたのか、しないのか、庸三は金のことに触れようとしないのであったが、大分たってから思い出して聞いてみると、もう一銭も残っていなかった。もちろん貰って来た翌日、少し買いものをしたので、さっそく手のついたことだけは解っていたが。
松川を東京駅へ送って行ったのは、その翌日の朝であったが、庸三にも、ちょっと見送ってくれないかと言うので、一緒に行きは行ったのだったが、彼は何か照れくさくもあったし、葉子も少し気持がかわって一人でプラットホームへ上がって行った。
「子供をせめて一人だけ私にくれてくれられないかと私言ったのよ。けど駄目らしいの。やっぱり上海へ引き取るらしいわ。それがあの人たちの運命なら仕方がないと思うわ。」
丸ビルの千疋屋《せんびきや》で苺《いちご》クレイムを食べながら、葉子は涙ぐんでいた。
しかし一日二日たつと、そんな感傷もいつか消し飛んでしまって、葉子はその金でせめて箪笥《たんす》でも買いに
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