たってどうにもならないことは思わないに限るのね。」
土地では運命を滅茶々々《めちゃめちゃ》にされた男の方に同情が多いものらしかったが、葉子に言わせると男の性格にも欠陥があった。美貌《びぼう》のこの一対が土地の社交界の羨望《せんぼう》の的であっただけに、葉子のような妻を満足させようとすれば、派手な彼としては勢い危険な仕事に手を染めなければならなかったし、どんな生活の破綻《はたん》が目の前に押し迫っている場合でも、彼女の夢を揺するようなことはできないのであった。若い技師の道楽半分に建ててくれた文化住宅の日本風の座敷に、何を感違いしたのか、床柱が一方にしかないのが不思議だと言って、怒り出した妻を、言葉優しく言い宥《なだ》めるくらいの寛容と愛情に事かかない彼だったが、田端時代になって愛の破局が本当にやって来た。それは、葉子がちょうどスタジオ入りの許しを得ようとした時であった。
「お前の容色《きりょう》なら一躍スタアになれるに違いないが、その代り貞操を賭《か》けなきゃならないんじゃないかね。」
葉子はそれを否定する代りに、にやりと頬笑《ほほえ》んだ。
今、葉子は思いがけなく上京した松川の手
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