たるものに評価し、ひそかに憧憬《しょうけい》を寄せていたのだったが、合理的な清川のやり口の手堅さを知ることができたと同時に、葉子の色もいくらか褪《あ》せて来たような感じだった。
「先生霊枝さんと何かありゃしない。」
「笑談《じょうだん》じゃない、何もないよ。」
「そう。」
 葉子も頷《うなず》いたが、田端へ引っ越したのも、まだ本当に切れていない雪枝から、完全に清川を奪い取るためだことは、庸三も気がついていなかったので、葉子の質問が、それを庸三が知っているのではないかという不安から来たものだということも知るはずはなかった。
「あの人も可哀《かわい》そうよ。番町にいる時、私一度飛び出したことがあるの。先生の処へ行こうと思って、濠端《ほりばた》の電車に乗ったら、あの人も追い駈《か》けて来たので、水道橋で降りててくてく真砂町《まさごちょう》の方へ歩いて行ったの。そうするとあの人も見え隠れに後からついて来て、あの辺の横町でしばらく鼬鼠《いたち》ごっこしているうちに、諦《あきら》めて帰って行ったものなの。私よほど赤門前の自動で先生へお電話しようと思ったんですけれど、そうなると先生の家の雰囲気がふっ
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