で髪を刈ることにした。しかし頭髪が出来あがった葉子が、いつまで待っていても上がって来ないので、降りて行ってみると、彼は椅子《いす》のうえに反《そ》りかえって、マニキュアと洒落《しゃ》れているのだった。
葉子の消息が絶えてからも、彼は時には彼女を訪ねるらしかったが、肝腎《かんじん》のことは何一つ口にしなかった。するうちに彼の姿も足も途絶えがちになってしまった。
葉子がどんな行動を取ろうと、それは手から難れた風船玉が雲へ入ったように、もうどうにもならないものであり、これで沢山だという気もしたが、何か腑《ふ》ににおちないものもなくはなかった。気を落ち着けていると、風のない湖水のように、波も立たないのであったが、心が少し揺れ出すと限りなく波が立ち騒ぎ、北を指す磁石のように、足が自然に下宿へ向いて行くのであった。多分もう下宿を引き揚げたであろうが、主人と話したら今まで知らなかった事実に触れることもできそうであった。
玄関口へ出たのは、お神《かみ》であったが、
「ああ、先生ですか。まあこっちへお上がりになって。」
お神はあわただしげに庸三を二階へつれて行って、
「梢さん今日お引越しですよ。
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