ても、不思議な存在であった。葉子との郷里の※[#「※」は「夕」の下に「寅」、第4水準2−5−29、305−上−13]縁《いんえん》で庸三を頼って来たものだったが、詩の天才的才分は、庸三も認めないわけに行かなかった。朝から晩まで着たきりの黒サアジの背広に赭《あか》いネクタイ、それにベレイを冠《かぶ》った彼の風貌《ふうぼう》は、体の小さいせいもあったが、生白い皮膚も筋肉も気持のわるいほどふやふやしていて、大抵の人に男装の女子と看《み》られるのに無理はなかった。彼は牝豹《めひょう》の前の兎《うさぎ》のごとく、葉子を礼讃《らいさん》し、屈従していた。処女のような含羞《はにかみ》があるかと思うと、不良少年のような聡慧《そうけい》さをもっていたが、結局人間的には哀れむべき不具者としか思えなかった。彼は傷ついた鳩《はと》のごとく、ややもすると狭心症の発作に悩まされがちなので、常住ポケットにジキタリスの小壜《こびん》を用意することを忘れなかった。ある時彼は葉子について、そのころ銀座にあったメイ・ハルミヘ行ったが、ちょうどその階下《した》が理髪屋であったところから、葉子がウエイブをかけている間、彼も階下
前へ
次へ
全436ページ中396ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング