けた面相の年増が二人いた。
「あれでなかなか芸人ですのよ。お座敷がとても面白いんですの。」
 師匠がおりて行ってからサンドウィッチを撮《つま》みながら、庸三はしばらく清川たちと話していたが、葉子が呼びに来たので降りて行くと、師匠の素踊りがもう進行していた。そしてそれがすむと、食卓を連ねてひそやかな祝宴が催された。震災の時|由井ケ浜《ゆいがはま》で海嘯《つなみ》にさらわれたという恋愛至上主義者の未亡人、その姉だというある劇場の夫人、それに雪枝と名取りの弟子たちとが、鍵なりに座を取ると、反対側に庸三と葉子と清川とが、これも鍵なりに坐っていたが、晴れやかな話し手はいつも雪枝の組で、そらすまいとは力《つと》めていたが、こっちの組はさながら痺《しび》れた半身のように白けていた。
 庸三は息詰りを感じて、やがて匆々《そうそう》に外へ出た。葉子も清川とふざけている瑠美子を促して、続いたが、星の煌々《きらきら》する夜空の下へ出ると、やっと彼女もほっとした。

 それが大晦日《おおみそか》の晩であった。庸三はある時は葉子と清川とのあの晩の態度に絡《まつ》わる疑問に悩みある時はそれを打ち消した。年は取って
前へ 次へ
全436ページ中388ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング