やや入口に近い右側の壁を背にして、清川と見知りの若い人の顔が見えたが、舞台では子供の踊りも、大分番数が進んだところであった。やがて瑠美子たちの愛らしい一組の新舞踊も済み、親たちが自慢の衣裳《いしょう》をつけて、年の割りにひどく熟《ま》せた子も引っ込んで、見応《みごた》えのある粒の大きいのも、数番つづいた。葉子は後ろの方にいたので、動静はわからなかったが、今夜の彼女はさながら凋《しぼ》みきった花のように、ぐったりしていた。瑠美子を預かってくれている師匠の晴々した目と、すでに幾度も苦い汁《しる》を呑《の》ませられた庸三の警戒の目の下に、やり場のない魂の疼《うず》きを忍ばせている彼女は、すでにこの恋愛の前にすっかり打ち※[#「※」は「足へん」+「倍」のつくり、第3水準1−92−37、301−下−16]《のめ》されていた。
やがて庸三は師匠にいわれて二階へ上がってみた。そこにはお茶の支度《したく》も出来ていて、サンドウィッチや鮓《すし》や菓子が饗応《ふるま》われた。
「あの人たち、先生のお国の西新地の芸者衆ですよ。」
師匠が言うのでそっちを見ると仕切りを外《はず》した次の部屋に、呆《ほう》
前へ
次へ
全436ページ中387ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング