ら独身時代の庸三の青壮年期も、別にぱっとしたこともなくて終りを告げ、二十五年の結婚生活にも大詰が来て、黄昏《たそがれ》の色が早くも身辺に迫って来た。彼は何か踊りたいような気持に駆られ、隅《すみ》の方で拙《まず》い踊りを踊りはじめたのだったが、もとより足取りは狂いがちであった。独りで踊りを持て扱い引込みもつかなくて、さんざんに痴態を演じているうちにも、心は次第に白けて来たが、転身の契機もそうやすやすとは来ないのであった。
 ある時も、彼は小肥《こぶと》りに肥った下宿の主婦に、部屋に葉子がいないと言われて、入口の石段を降りて来たが、何か人の気勢《けはい》がしたようにも思われるし、お茶でも呑《の》みに行ったか、行きつけの南明座《なんめいざ》かシネマ・パレスヘでも行ったのなら、帰るのを待つのもいいような気もしたが、いつもの「上がってお待ちになっては……」とも言わないので、それも気になった。
 ちょうど政友会の放漫政策の後を享《う》けて、緊縮政策の浜口内閣の出現した時であった。ふと庸三の耳に総理大臣の放送が入って来た。ラジオは下宿から少し奥へ入ったところの、十字路の角の電気器具商店からだったが、
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