葉子は今起きたばかりの庸三の傍へ来て、空洞《うつろ》な笑い声を立てたが、悄然《しょんぼり》卓子《テイブル》に頬肱《ほおひじ》をついている姿も哀れにみえた。
やがて多事だったその年も、クリスマスが近づいて来た。庸三は時に葉子の下宿の方へ足の向くこともあったが、そのころになると、彼女の窓の赭《あか》いカアテンに、例のスタンドの明りが必ず映っているとも決まらなかった。
「また何か初まる。」
庸三は六感を働かせながら、賑《にぎ》やかな通りの方へ引き返すのだった。
二十三
表通りも賑やかだったが、少し入り込んだところにある下宿へ行くまでの横町は、別の意味で賑やかであった。表通りは名高い大きな書店や、文房具屋や、支那《シナ》料理などの目貫《めぬき》の商店街であったが、一歩横町へ入ると、モダアニズムの安価な一般化の現われとして、こちゃこちゃした安普請のカフエやサロンがぎっちり軒を並ベ、あっちからもこっちからも騒々しいジャズの旋律が流れて来るのだった。庸三はせっかく行ってみても、葉子がいなかったりすると、張り合いがないので、なるべくなら行かないことにしていたが、彼女の動静はや
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