ていた。
 新しいだけに旅館の感じは悪くはなかった。それに彼女はどこへ行っても、番頭や女中に好感をもたれるのだった。
「びっくりした?」
「いや大して。」
 見るとスウトケイスや、唐草《からくさ》模様の風呂敷包《ふろしきづつみ》などが、大小幾つとなく隅《すみ》の方に積まれ、今着いたばかりだというふうだった。
「どうしたんだい。」
「ううん、着いて間もなくお母さんと喧嘩しちゃったのよ。手当り次第汚ない下駄《げた》を突っかけたまま、飛び出して来たものなのよ。」
「瑠美子は?」
「泣いて追い縋《すが》って来るから、瑠美子も一緒よ。下で北山さんとお風呂に入っているところよ。」
 看《み》ると横に細長い見馴《みな》れぬ時計が彼女の腕に虫みたいに光っていた。
「そんなもの買ったのか。」
 庸三は咎《とが》めるように言った。多分立ち際《ぎわ》の買いものだと思われた。
「御免なさい。お金いただいて。でも、そんなに手が着いていないわよ。一緒に旅行しましょう。」
 葉子は尻《しり》あがりに言った。あれだけあってもどうせ何ができるものでもないから、一緒に綺麗《きれい》に使おうといったふうだった。
「それより
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