呼び出そうと思えばいつでも呼び出せる庸三だと、葉子は高を括《くく》っていた。それに今度は金の問題があるだけに、取るには取ったが、後の気持に何か滓《おり》が残った。上野で袂《たもと》を別った時の彼の態度も気にかかった。庸三は一応春日の手前も考えてみなければならず、かかる事件の連続にも飽いていたが、別れた時の言葉はまるで忘れたような今の葉子の電話の爽《さわ》やかさには、自身に閉じ籠《こ》もってもいられないような衝動が感じられ、変転|究《きわ》まりない彼女の行動を、つけられるだけは尾《つ》けてみたくもあった。
朝はまだ早かった。秋らしい光線が、枝葉のやや萎《な》えかかった銀杏《いちょう》の街路樹のうえに降り灑《そそ》ぎ、円タクの※[#「※」は「風+昜」、第3水準1−94−7、293−上−11]《あ》げて行く軽い埃《ほこり》も目につくほどだった。旅館は新宿のカフエ街の垠《はず》れの細かい小路にあったが、いつか一度泊まったこともあるので、すぐ円タクを手前まで乗りつけることができたが、車をおりて前まで歩いて行くと、上から葉子の呼ぶ声がした。見あげると手摺《てすり》に両手をついて、下を見ながら笑っ
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