の友人である庸三なぞの生活が、どんなものだかという見当もつかぬものらしかった。
「あれ三十万円かかったというんだがね、株で損したりして、今となっては少し持て余しものだから、負けるにはぐっと負けるだろうが、僕らの住居《すまい》にはこてこて凝りすぎて、何だか可笑《おか》しいね。」
 帰りの自動車のなかで、友人は話すのだった。

 葉子の今度の電話では、彼女は都合によって田舎《いなか》へ帰ることになったから、立ちがけにちょっと話したいこともあるので、上野駅前の旅館|大和屋《やまとや》まできっと来てくれるようにというのだった。その時分になると、庸三の心持にも落着きが出来ていた。町はまだいくらか暑かった。庸三はいつもの塵除《ちりよ》けを着て、握り太の籐《とう》のステッキをもっていたが、二つ三つの荷物のごろごろしている狭い部屋に迎えられて、葉子と侍女の女美術生北山とのあいだにどっかと坐った。彼は今はすべてが夢だという気がしていた。田舎へ帰るというのも、さっぱりした感じだった。何かインチキがありそうに、今さら田舎へ引っ込むことになった心境と理由についての、涙まじりのくどくどしい説明も、取ってつけたよ
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