んが相続者という立場て、そんなこと言うなら、私も止します。」
「しかし戸籍上の手続きをするというのは、お互いに縛ることだから、君にも不利益じゃないか。」
「それが先生の利己主義というものよ。私もうここにいられない。」
 苛立《いらだ》つときの彼女の神経は、彼にはいつでも堪えがたいものであった。
「じゃ勝手にするさ。」
 庸三の語調も荒かった。
 葉子は旋風のごとく飛び出して行った。

 春日は庸三の亡妻時代からの懇意な弁護士であった。数寄屋河岸《すきやがし》に事務所をもち、かつて骨董癖《こっとうへき》のある英人弁護士の事務所に働いたこともあるので、自分でも下手《げて》ものの骨董品や、異国趣味の室内装飾品などが好きであったが、庸三はある連帯の債務を処理してもらったことから、往来するようになったものだった。それに美貌《びぼう》のその夫人がはからずも葉子の女学生時代の友達であるところから、葉子が庸三のところへ来てからも、同窓生の集りであるお茶の会に呼ばれたこともあり、往《ゆ》きつけのカフエや芝居へ案内されたこともあった。真実《ほんとう》のことはいざ知らず、表面では彼らは二人に好意をもっていた
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