時よりも、その方がかえって庸三の神経に、いくらかの余裕と和《なご》みが与えられるのであった。二人きりの部屋が息詰まるように退屈になって来ると、彼はまた環境の変化を求めないわけにいかなかった。綺麗《きれい》な風呂場《ふろば》や化粧室などの設備のあるところとか、日本風の落着きのいい部屋や庭のあるところとか、世間から隔絶されたひそやかな場所に潜んでいることが、家庭人であった彼の習性をすっかり変えてしまっていた。寄り場のない霊を、彼は辛うじてその刹那々々《せつなせつな》の宿りに落ちつけようとしたが、それは単に気分の一時の変化を楽しむだけで、どこへ行っても寂寥《せきりょう》が彼を待っているにすぎなかった。
あるときも、体の縮まるような渋谷の葉子の家を脱《のが》れて、市外のそうした家の一つにいた。渋谷からそう遠くもなかったし、二三回来たこともあって、葉子をひどく好いている女中とも馴染《なじみ》になっていた。
ある涼しい夕ベ、その部屋に閉じ籠《こ》められていることに、ようやく憂鬱《ゆううつ》を感じはじめていたところで、葉子の充《み》ち足りない気分がまたしても険しくなって来た。折にふれて感情の小鬩
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