先生を取るなんて、貴女《あなた》も随分|妄想家《もうそうか》ね。」
 どこかでそう言って喋《しゃべ》っている小夜子のちらちらする目が、庸三の頭に浮かんで来た。

 しかし五六日もいると、この生活もやがて慵《ものう》くなって来た。可憐《かれん》な暴君である葉子のとげとげしい神経に触れることも厭《いと》わしかった。それでいて彼はやっぱり彼女の黒い目や、惑わしい曲線の美しさをもった頬《ほお》や、日本画風の繊細な感じに富んだ手や脚に惑溺《わくでき》していた。商売人あがりの小夜子には求められない魅力を惜しまないわけに行かなかった。嫌悪《けんお》と愛執との交錯した、悲痛な思いに引き摺《ず》られていた。時はすでに遠く過ぎ去っていることも解《わか》っていたが、それだけに低徊《ていかい》の情も断ち切りがたいものであった。
 それなのに庸三はしばしば飽満の情に疲れて、救いの第三者の現われることを希《ねが》った。自分の友達であると葉子の友達であるとにかかわらず、話相手の若い人や女性の座にいるときが望ましかった。そうした場合庸三はいつも無口で、葉子が客の朗らかな談敵《はなしあいて》になるのであったが、差向いの
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