、ちょっと不愉快であった。証文があるにせよ、無いにせよ書こうと思えぱどんなことでも書ける、書きたくないと思えば書かない――そんなことは自分の意志次第で、証文が反故《ほご》も同然だという気持が職業心理の憂鬱といった不快な感じを与えた。仮定的にもせよ、当座の思いつきにもせよ、金で彼を縛ろうとしている彼女の気持も愛らしいものとは思えなかった。
しかし、ちょっとした弾《はず》みで、その瞬間の平和が破れると、二人はまた猿《さる》と犬のように争った。その果てに傍《そば》にいた瑠美子まで泣き出して、庸三に打ってかかって来た。
やがて庸三は机のうえに散らかったものを、折鞄《おりかばん》に仕舞いこんで、外へ飛びだすと雨のふるなかを近所の車宿まで草履《ぞうり》ばきのまま歩いて行った。
庸三は汽車のなかで、その時の頑《かたくな》な態度と、露骨な争闘とを思い出していたが、瑠美子を庸三から引きわけて胸に抱きしめながら、嘆いていた彼女の姿も目に浮かんだ。
「情熱の虫がこの体に巣喰《すく》っている!」
喧嘩《けんか》の果てに、葉子はそう言ってぽろぽろ涙を流しているのだった。
新興芸術、プロレタリヤ文学―
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