水の好きな葉子に促がされて、濛靄《もや》のかかった長い土手を白髯橋《しらひげばし》までドライブして、ここで泊まったことがあったが、怪談物の芝居にあるような、天井の低い、燻《いぶ》しのかかった薄暗い部屋で、葉子はわざと顔一杯に髪を振り乱して、彼にのしかかって来たりしたのだったが、すでに二つの恋愛事件で、自身も苦しみ庸三もさんざん苦い汁《しる》をなめて、憎悪の言葉さえ投げつけたあとでは、気分の融《と》けあうはずもなかった。
名物の蜆汁《しじみじる》だの看板の芋の煮ころがしに、刺身鳥わさなどで、酒も二猪口《ふたちょこ》三猪口口にしたが、佞媚《ねいび》な言葉のうちに、やり場のない怨恨を含んで、飲みつけもしない酒の酔いに目の縁をほんのりと紅《あか》くした葉子が、どうかするとあの時の新聞記事のことで、ちくちく愚痴をこぼすので、庸三は終《しま》いにはただ卑屈に弁解ばかりもしていられなかった。
風呂《ふろ》に入ってから、二人はいつかの陰気な居間で休んだのだったが、しばらくすると葉子は細紐《ほそひも》をもって彼にのしかかって来たかと思うと、悪ふざけとも思えない目色《めつき》をして、それを庸三の首に捲
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