そう、あの男あの事件の直後、僕の留守へ三四人でやって来て、ひどく子供を脅《おど》かして行ったそうだよ。留守をつかうんだろうとか、お前の親父《おやじ》の名声ももう地に墜《お》ちたとか言って……。あの朝の旅館の会見が、悪い印象を与えたんだ。あの恋愛も、僕が君の背後にいて画策したんだというふうに気を廻してしまったんだ。」
「今は何でもないんだけれど。」
庸三もあの時、新聞社の客間では、お互いに笑って会釈したくらいだった。
日暮方になると、二人は何か憂鬱《ゆううつ》になった。二人きりの世界の楽しい瞬間もあるにはあったが、永く差し向いでいるときまってやり場のない鬱陶《うっとう》しさを感ずるのが、庸三の習癖であった。理由もなく何か満ち足りない感じがいつもしていたし、世間からの呪詛《じゅそ》や、子供たちの悩みも思われて、彼の神経はいつも刃物をもって追い駈《か》けられているにも比《ひと》しい不安に怯《おび》えていた。それでなくとも、眩惑《げんわく》の底に流れているものは、いつも寂しい空虚感で、それを紛らすためには、絶えず違った環境が望ましかった。
「ちょっとホテルヘ行ってみない?」
葉子は誘った
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