のに触るように庸三を取り扱ったが、ぷすぷす燻《くすぶ》る憎悪の念をどうすることもできなかった。庸三も、最後は潔《いさぎ》よくするつもりで、ちょうど昔から女には好意をもたれないように生まれついているものと、自分で決めていたと同じ自己否定の観念や、年齢や生活条件もそれに加算してのうえで、肚《はら》を決めていたのであったが、そっと一言二言批判がましいことを、談話のあとで口にしたことが、葉村氏の筆であんなふうに誇張されてみると、葉子と差向いにいても、卑劣な腸《はらわた》を見透かされるようで、いつも苦りきったような顔をしているよりほかなかった。
 ある日鵠沼にいる例の黒須がひょっこり訪ねて来た。ちょうどその時葉子は籠《かご》から逃げた一羽生きのこりのカナリヤの雄を追っかけて、スリッパのまま隣りの空地《あきち》まで捜しに出ていた。どうしたのか籠の戸口が少し透いていた。庸三も一緒に縁におりて、珊瑚樹《さんごじゅ》の垣根《かきね》や、隣りの松や槻《けやき》のような木の梢《こずえ》を下から見あげていた。葉子が博士《はかせ》と別れてここへ来るとき贈られたものだということが、頭に閃《ひら》めいて、それも一羽
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