、話はそれきりになった。
「逗子の海ももうすっかりさびれてよ。もうあの人もやって来ませんから、先生お仕事をお持ちになってまたいらしてね。私の名誉|恢復《かいふく》のためにも当分それが必要だとお思いにならない? 御飯たべたら活動でも見て、一緒に行って下さるわねえ。」
「行ってもいいけれど……。」
チキン・ソオテにフォクをつけながら、庸三は生返事をした。ああした事件の後の、葉子の海岸の家を考えるとなおさら憂鬱《ゆううつ》であった。
ちょうど葉子がパフをつかってから、二人で食卓を離れるころに、客が一組あがって来たので庸三は急いで階段をおりた。あの事件以来、彼は一層肩身の狭さを感じた。
この先き庸三との関係がどのくらい続くものかは、葉子にも見当がつかなかったが、どんな場合にも――たとい彼女と第三者とのあいだに、さらに新しい恋愛が発生したとしても、師は師として崇《あが》めると同時に、庸三も苦しいなりにもとにかく師父としての立場で愛情と保護を加えることを惜しまないであろうことを期待したのだったが、結果があんなふうになった以上、当分庸三を擬装の道具につかうよりほかなかった。彼女は腫《は》れも
前へ
次へ
全436ページ中328ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング