、庸三はあの記事が自分の本意でないことを訴えた。
「葉村君は私の気持を少し好意的に酌《く》みすぎたんですよ。あれじゃ全然葉子を叩き潰《つぶ》すようなもので、私も寝醒《ねざ》めが悪くて仕様がありませんから。一つ取り消していただきたいと思って……。」
「そうですかね。しかし取消しはどうですかね。社の方でもよくよくの間違いでもなければ、一度出したものは取り消しはしないことになっているんですがね。あれはあれでいいじゃありませんか。」
「いや、困るんです。葉子よりも僕の立場がなくなるんで。」
しばらく話が入り乱れたが、傍に葉子が耳を苛々《いらいら》させているので、庸三も少し逆上気味になっていた。それに電話が遠くなって、何か雑音が混じり込んだりしたので、急所がはっきりしかねた。やがて庸三は受話機を措《お》いた。そして、廊下の端に誰か立聴《たちぎ》きしているのに気がつくと、急いで二階へ上がった。
「駄目。」
庸三は投げ出すように言った。
葉子が黒須を動かして、彼の知っている、その新聞社の上層部の好意で、特別に記事の訂正かたがた葉子のために記事の載せられたのは、それから間もなくであった。
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