……。」
「それどこじゃないわ。私あの人たちに顔も合わせられないわ。それにああいうブルジョウアは、中へ入ってみるとやはりいやなものなのよ。あの人だってどこの株がどうだとか、そんな話しているのよ。」
すぐ昼になった。昨夜葉子は一時ひどくヒステリックになって、庸三の万年筆の軸を二つに折ってしまったので、彼は少し書くつもりで原稿紙を拡《ひろ》げたのであったが、そのままになってしまった。葉子は折れた万年筆を叩《たた》きつけて、インキの壜《びん》も破《わ》ってしまった。インキがたらたら畳のうえにまで滾《こぼ》れた。庸三は今朝《けさ》電車通りの文房具屋から万年筆を持ちこませて、一本買ったのであったが、ついでに軸の透明な女持を一本葉子にも取った。しかし今日起きてみても、原稿紙を拡げる気分にもなれなかったので、それはそれとしてとにかく新聞社へ電話ででも掛け合ってみるよりほかなかった。
電話は段梯子《だんばしご》をおりた処《ところ》の、ちょっと入りこんだ薄暗い蒲団《ふとん》部屋の外側の壁にあった。葉子も降りて来て傍《そば》で監視した。葉村氏はいなかったが、社会部の主任らしい人がやがて出て来たところが
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