幻影に酔っていたし、しばしば鏡にうつる黒い深い目にいとおしく見惚《みと》れて「ちょっと見て。私今日美しいわ」などと無邪気に呟《つぶや》くのだった。庸三もそれはそうだと思いこんでいたが、しかし鏝にさわられて絶叫した時のような瞬間々々の表情の美しさをもちろん彼女自身に見ることはできなかった。庸三はもちろん他の男にも同じ表情をしあるいはもっと哀切|凄婉《せいえん》な眉目《びもく》を見せるであろう瞬間を、しばしば想像したものだったが、昨夜のように気分の険しさの魅惑にも引かれた。
昨夜連れこまれた時から、庸三は何か胡散《うさん》な気分をこの家に感じていた。ずっと後になってからここのお神《かみ》の口から洩れたことだと言って、そのころ葉子は例の外科の博士《はかせ》をここへ連れこんで来たものだが、他にも若い人と一緒にタキシイを乗りつけたりした。庸三はこの家が彼以前の葉子の愛人の遊び場所だことは、連れて来られた瞬間に気づいたことだったが、そこまで恥知らずの彼女とも思わなかった。しかし、彼は女中やお神に顔を見られるのがいやさに、わざと葉子を床の前にすわらせて、自身は入口を後ろにしていた。入口の襖《ふすま
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