》のことが思い出された。
「あの人芝居道の人なんかと、この家へ遊びに来たものなのよ。」
 やがて玄関の方の戸があいたので、そこから上がって、奥二階の静かな部屋へ落ち着いた。
「何か食べたい。先生どう。」
「食べてもいいね。」
 葉子は手提《てさげ》のなかから、ペンとノオトの紙片《かみきれ》を取り出して、三四品|註《あつら》えの料理を書いて女中に渡した。
「御酒は。」
 女中が訊《き》くので、
「少し飲みたいの。一本でいいわ。遅くにすみませんけれど。」
 四皿の洋食が来るまでには、少し間《ま》もあった。庸三は痛いところに触られまいとして、わざと態度を崩さないように構えていたが、葉子はじりじりする気持をわざと抑えるようにしていながら、それとなし記事に触れて行こうとした。
「みんなそう言ってたわ、あの記事少し酷《ひど》いって。日頃の先生にも似合わない仕打ちだって。」
「あれは葉村君の感違いだよ。」
「だからいつも言ってるじゃありませんか。新聞社の人には一切|逢《あ》わないことにして下さらなくちゃ困りますって。」
「それも場合と相手によるんだ。葉村君ならきっと有利に書いてくれると思ったんだ。僕
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