葉子は神経が亢《たか》ぶっていて、落着きがなかった。
「どこかへ行きましょうよ。私さっきちょっとお宅へも行ってみたのよ。すると一時間ほど前に権藤さんが旅館へやって来て、先生んとこの庄治さんが今お酒に酔って、貴女《あなた》をやっつけると言ってるというのよ。とにかく出ましょう。こちらも迷惑よ。」
 二人はまた外へ出た。通りでは店屋《みせや》はどこも締まっていた。横町のカフエや酒場からの電燈の光が洩《も》れているきりだった。スピイドをかけた自動車が、流星のように駒込《こまごめ》の方へと通りすぎた。そのうちに空車が一台やっと駒込の方からやって来たので、急いでそれに乗った。
 乗り入れたのは、西北の方角に当たる町なかの花柳地だったが、時間過ぎなのでどこも森《しん》としていた。葉子は広い通りに露出《むきだ》しになっている、一軒の家の前で車をおりて、勝手口の方へまわって、「おばさん、おばさん」と言って、木戸を叩《たた》いていたが、しばらくしてから内から返辞があった。
「私来たことあるのよ。解《わか》るでしょう。でも蔑視《さげす》まないでね。」
 そう言われて、庸三はたちまちあの青年|一色《いっしき
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