だ。」
「葉子さんに気の毒ですよ。それに毒の花なんて出ているけれど、これはボオドレイルのあれだけれど、意味が全然違いますよ。」
 そのころ庸太郎はその詩人の悪魔主義にも影響されていた。行動にもそれが窺《うかが》われた。
 しかし庸三は綺麗事《きれいごと》で済まされないことも感じていたので、目を瞑《つぶ》るよりほかなかった。
 小夜子は興味がなさそうに、やがて仏壇を離れて来ても、その問題には触れようともしなかった。ずっと後に気のついたことだが、小夜子はそのころすでに彼の子供の友達であった。

 二三日してから、ある晩もまた庸三は小夜子の家《うち》で遊んでいた。
 彼はそこで落ち会ったジャアナリストの一人と、川風に吹かれながらバルコニイへ出て、両国から清洲橋《きよすばし》あたりの夜景を眺めていたが、にわかに廊下へ呼びこまれた。
「先生お電話ですよ、葉子さんですよ。」
 このごろここへ来て手伝っている、小夜子の姪《めい》が低声《こごえ》で言うのであった。
「居ると言った?」
「え、坊っちゃんが……。」
 庸太郎が帳場にいたのだった。
「そいつあ困ったな。」
 当惑しながら庸三は降りて行った。
前へ 次へ
全436ページ中313ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング