すが、夢というか慾望というか、いつもそれに負けてしまうんです。」
「しかし先生のお心持はどうですか。今までじっとあの人を見詰めておいでになって……。」
「いや、見詰めてもいなかったんですが、何か始終求めて止《や》まないものがあるんですね。」
 庸三はそう言って、ぽつぽつ本音《ほんね》の憎悪の言葉を口にし初めた。そして最後に、
「これはここだけのお話ですから、どうぞそのつもりで。私一|箇《こ》の批判ですから、書いちゃいけないんです。」
 葉村氏はやがて帰って行った。

 翌朝十時ごろに帳場へ出て行ってみると、そこに庸太郎がすでに起きていて、葉村氏の勤めている社の朝刊を拡《ひろ》げて読んでいた。小夜子はいつものことで、薄暗い中の間で明々《あかあか》と燈明のとぼっている仏壇の下にぴったりと坐って、数珠《じゅず》を揉《も》みながら一心にお経をあげていた。人生に多くの夢を抱《いだ》いていることは彼女も葉子も同じだったが、長いあいだ職業的に鍛えあげられて来ているだけに、お嬢さん気質のぬけきらない葉子に比べて、心に一筋筋金が入っていた。信心は母に植えつけられた過去への贖罪《しょくざい》でもあったが、
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