ていたが、相当興奮もしていた。
「いや、実は葉子さん、貴女《あなた》が稲村《いなむら》さんに逢《あ》ってくれというもんだから、わざわざやって来たんですがね。」
 これじゃどんなものだかと言った意味の断片的な言葉を口にしながら、険しい目で庸三を見おろしていた。
「そのつもりで、先生にも来ていただいて、お待ちしておりましたのよ。」
 葉子はそう言って、お茶の支度《したく》をしていたが、黒須の低気圧に気がついていたので、さすがに気後《きおく》れがしていた。
「どういうお話ですか、僕でよかったら伺いたいと思いますが……。」
 庸三も口をきいたが、黒須は腹にすえかねることがあるように、何か威丈高《いたけだか》な態度で、金属のケイスから、両切りを一本ぬいてふかしていた。
「無論結婚の取り決めでしょうと思いますが、それについて何か……。」
「いや、それもありますが、それに先立って、失礼ながら梢さんに果してそれだけの誠意があるか否かが問題なのであって、その見究《みきわ》めがつくまで、私も園田の後見役として、とくと梢さんのお心持なり態度なりを見届けなければならない立場にあるので。」
「そのことでしたら、
前へ 次へ
全436ページ中307ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング