今後葉子自身が証明するでしょうが、今が葉子の過去を清算するのに絶好の時機じゃないかと思うのです。」
 それならこの為体《ていたらく》は一体どうしたのかとでも言いたそうに、黒須は煙草をふかしながら、二人を見比べていたが、庸三という老年の文学者が、蔭《かげ》で葉子を操《あやつ》っている、何か狡獪《こうかい》な敗徳漢のように思われてならなかった。
「とにかく今日は失礼しましょう。いずれまた機会があったら……。」
 黒須は示唆的な表情を葉子に示して、あたふた座を立って部屋を出た。
 黒須を送り出した葉子は、すぐに部屋へ帰って来たが、興醒《きょうざ》めのした顔でぷりぷりしていた。
「悪かったな。」
 庸三が呟《つぶや》くと、
「だって先生が何も言ってくれないじゃありませんか。」
 葉子の声には突き刺さるような刺《とげ》があった。
「だって先が何も言ってくれないじゃないか。僕として何も言うところはないんだ。」
「先生はいつだってそうなのよ。大切なことといったら何一つ考えてもくれなかったじゃありませんか。先生の落ち目になった社会的信用で、この上私を持って行こうったって、それは無理だわ。」
 葉子はヒ
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