に空《あ》いた部屋ありますわね。」
「あいにく一杯でございますけれど……。」
 若い女中が答えた。
 葉子は当惑した。
「じゃあちょっと待っていただいて……。」
 彼女は女中を手伝って、急いで寝道具を取り片づけ、ちょっと鏡台の前へ行って、顔を直してから、廊下へ出て来客を出迎えた。
 朝の九時ごろであった。庸三はまだ全くは眠りから覚《さ》めないような気分で、顔の腫《は》れぼったさと、顔面神経の硬張《こわば》りとを感じながら、とにかく居住いを正して煙草《たばこ》を喫《ふ》かしていた。
 脊《せ》の高い背広服の紳士が入って来た。颯爽《さっそう》たる風姿で、どこか、庸三が昔から知っている童話の老大家の面影に似通った印象を受けたが、彼は、自分流にずうずうしく落ちついていた。
 茶盆や水菓子の鉢《はち》などが散らかっていた。それに一人の女中が、のろのろと敷布団《しきぶとん》を廊下へ運び出していたらしいので、何かばつが悪かった。
「こちらが黒須さんですの。」
 葉子の紹介につれて、二人は簡単な挨拶《あいさつ》を取りかわしたが、何か妖気《ようき》の漂っているような部屋を、黒須は落着きのない目で見まわし
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