なしにしておいた母に詫《わ》びたいような弱さに引き入れられた。妻はといえば、十分愛したつもりの庸三には悔いるところもなかった。
庸三は昼間も床を延べさせて、うつらうつらとしているようなことも多かったが、葉子が庸三を裏切ったと言って憤慨している権藤青年の誘いもあって、今一度葉子に会う機会を作りはしたが、上野の鳥料理で金を渡して別れてしまってからは、急に遠い人になってしまった感じで、憑《つ》きものが落ちたような空虚な自身を見出《みいだ》すのであった。彼は葉子たちの結婚が順調に行くことを祈る気持になるかと思うと、彼女が普通|真面目《まじめ》な家庭に納まりきれない性格の持主だというところから、持前の浮気な熱情でせっかく飛びついて行っても、じきにまた破綻《はたん》が来るであろうことを、ひそかに希《ねが》ったりしていたのも真実で、今後もし逢《あ》う機会があっても、もう今までのような気持では逢ってもいられないだろうし、反動的な嫌悪《けんお》の情が彼の総身に寒気《さむけ》を立てさすであろうとは思ったが、それと同時に、何か腹癒《はらい》せに彼女をさんざん弄《もてあそ》んでやりたいような悪魔的な野心も芽
前へ
次へ
全436ページ中298ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング