らの成行きを探ろうとはしなかったであろうが、彼はこの事件もちょうどここいらで予期どおりの大詰が来たのだし、自身の生活に立ち還《かえ》るのに恰好《かっこう》の時機だと知って、心持の整理は八分どおりついていながら、まだ何か葉子の匂いが体から抜けきらないような、仄《ほの》かな愛執もあって、それからそれへと新らしい恋愛を求めて行く彼女を追跡したいような好奇心に駆られていた。ある時は彼もぴったり心に錠を卸してしまい、あの憂鬱《ゆううつ》な日常から解放された気易《きやす》さで、庭へ出て花畑の手入れをしたり、蔓《はびこ》る雑草を刈り取ったり、読みさしの本を読んだりするのだったが、そうしているとまたつい独身ものの気弱さというようなものにも、襲われがちで、まだ記憶の新しい亡き妻の思い出を超《こ》えて、ずっとその奥の方にぼやけている亡き愛嬢の面影や、死の前後のことが不意に彼を感傷の涙に誘うのであった。夜なかに目がさめてその娘のことが浮かんで来ると、いつでも胸が圧《お》されるようになって、病的な涙が限りなくにじみ出て枕《まくら》にまで伝わりおちるのであった。そしてその次ぎには、死ぬまで――いつもうっちゃりぱ
前へ
次へ
全436ページ中297ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング