はしなかった。しかしそうした不安な日常のあいだにも、逗子で起こったこのごろの事件から、うみただれた肉体にメスが当てられ、重苦しい苦悩の下から、燃えのこりの生命が燻《くすぶ》り出したような感じで、今まで余所事《よそごと》のように読みすごして来た外国の作品などに、新らしい興味を覚え、もしも余生がこの先き十年もあるものなら、出直してみたいという欲望も、頭を持ちあげて来た。
 それに庸三は、最近裏の平屋を取り払って、その迹《あと》へ花畑や野菜畑を作ったり、泉水に水蓮《すいれん》や錦魚《きんぎょ》を入れて、藤棚《ふじだな》を架《か》けたりした。碧梧《あおぎり》の陰に、末の娘のために組み立てのぶらんこをも置いた。しかしそうして、女中に手伝わせて、ホースで水を撒《ま》いたり、鍬《くわ》やシャベルを持ち出して、萩《はぎ》や芙蓉《ふよう》の植え替えをしたり、薔薇《ばら》やダリヤの手入れをしていると、老いた孤独の姿がますます侘しく心に反映して来て、縁側へ来て休んでいても、お茶一つくれるものもないのが物足りなかった。
 逗子における葉子の事件は、庸三の近くにいる二三の青年を嫉妬《しっと》半分|憤《おこ》らせ
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